苦悩
どこで歯車が狂ったのだろう。
どこで曲がるところを間違えたのだろう。
いつ手が離れてしまったのだろう。
繋いでいたはずの手は遠く、
振り返った先には誰もいない。
守りたかった人も、信じていた友も。
どちらも消えてしまった。
かけらも残ってはいない。
この手で握り締めたいものは、ことごとくすり抜ける。
愛している人と、かけがえのない友だけではなく。
なついていてくれた子供も、
世界に恵みをもたらすクリスタルも。
みんな、消えた。
ゴルベーザを許さないと、思う。
けれど、本当に許せないものはきっと、
守れなかった自分自身だろう。
力がないことが、悔しい。
強くある事が尊ばれる国民性のせいもあるのか、
自分も幼い頃から、育ての親である王にあこがれた。
かつては強い騎士でもあった、尊敬すべき人。
その人に憧れて、守りたいものがあって、厳しい鍛錬に励んだ。
やがて孤児と言う障害を乗り越えて、
軍のエリートと言うべき暗黒騎士に、次いで赤い翼の隊長になった。
そして今は試練を克服し、聖剣を持つ騎士・パラディンとなった。
けれど、どうなのだろう。
守りたいものを、守る力があるのだろうか。
どこからか姿のない声が木霊する。
“お前には何も守れはしない”
“罪を犯したお前に、望むものを得る資格はない”
“何も取り戻せはしない”
己を責める声が強くなったのは、いつからだろう。
寄せられる淡く強い思いに、
見て見ぬふりをするようになってからだろうか。
時折親友が、その深く青い目を曇らせるようになってからだろうか。
それとも。考えても、はっきりはしなかった。
心に声が木霊するのは、
どこかでその通りだと思っているからだろう。
もう1人の自分がささやくとは、よく言ったものだと思う。
違うとかき消しても、なかなか断ち切ることは出来ない。
まるでそれは影のように、
心の裏側に、奥底にあるからだ。
無意識下の意思なのか、普段の自分とは違う一面に過ぎないのか。
それは判別がつかないけれども、
切り離せないことに変わりはない。
それもまた、自分なのだから。
己を苛む声は変わらず強く、
まるで茨の鎖に絡み取られたかのように心は痛む。
それでも、この目は天を仰ぎ続ける。
浮かんでしまった悲しみも、何もかも押し込めて。
今は振り返ることはないように、
過ぎてしまったことに囚われないようにと、強く念じる。
それと同時に、過去の過ちから目を背けないことも誓った。
過去に囚われることと、向き合うことは違う。
それを知っているから。
1人で悩んでいた時には気がつかなかったけれど、
周りを見回せば、今は1人じゃない。
今、この身に残ったもの。
それは、信頼することが出来る仲間。
悩んでも、もがいても、それでもまだ立てるのは、彼らが居るからだ。
彼らは時に、僕よりも僕のことを分かっている。
その優しさに、何度助けてもらっただろう。
死んでしまった命は、奪ってしまった命は帰ってこない。
けれど、もしもまだ間に合うことがあるのならば。
どれだけ傷ついてもいい。
この身が罪の対価となるのなら、差し出してもいい。
だから、どうか。
チャンスだけは、奪わないで欲しい。
気がつけば、わずかな涙が頬を伝っていた。
この涙は、心の弱さの現われなのか、否なのか。
それはわからないけれど。
失ったものを取り戻すため。
そして、また新たな悲しみを生まないために、
この手の聖剣を振るおう。
また、間違えてしまうかもしれない。
守れないかもしれない。
それでも進もう。
あきらめてこの現実を受け入れてしまうことだけは、絶対に嫌だから。
たとえ、選んだ扉の先がどんなに険しくても。
力のない自分を呪うことがあったとしても、
僕は決して止まらない。
―END― ―戻る―
試練の山からゾットの塔まで、つまり中盤のセシルの独白で書きました。
以前書いたインク壷の「旅人の歌」と似ていますが、
あれより少し後、文字通り苦悩しながら決意を固めた感じで。
PCの音楽管理ソフトに入れていた、「焔の扉」を聞いていたら思いつきました。
某アニメの某キャラのイメージソングですが、
何となくこの頃のセシルにも合っているような気がします(独断
ちなみにうっかりしていて、仮背景&絵無しのままアップしてました(汗
運良く線画が(時間は食っても)そこそこうまくいって、
色塗りに時間をかけたブツです。でも、涙は難しいですね。